ビューティ業界の顧客体験を紐解く――ユーザーの期待と電通デジタルのソリューションとは?
ビューティ業界では、顧客の価値観や購買行動がかつてないスピードで変化しています。こうした変化に対応し、最適な顧客体験を提供することは、マーケターにとって大きな課題です。電通デジタルが発表した「THE BEAUTY QUESTERS(美しさの追求)白書」は、特にコスメ市場に焦点を当て、最新のユーザーインサイトを明らかにしたレポートです。本記事では、白書で示されたビューティ業界のトレンドやユーザーの期待、そして電通デジタルが提唱するCX向上のためのアプローチを紹介します。
ビューティ業界のCX戦略に関する3つのテーマを調査
――この4人で「 THE BEAUTY QUESTERS 白書」を作ることになったのは、どのようなきっかけや経緯があったのでしょうか?
神澤:私たち4人は、ソーシャルエンゲージメントデザイン部門で、LINEを活用したCX(顧客体験)戦略の立案を担当しています。CXを基盤に、「LINEを通じてどのように顧客とコミュニケーションを取るべきか」を軸に据え、クライアントの課題解決に日々取り組んでおり、そうした実践から得たインサイトや知見を、積極的に共有しています。
飯村:あるとき、私たち自身のLINE体験を共有する機会がありました。話が盛り上がるうちに、自然と競合分析のような深いディスカッションに発展したんです。ユーザー視点でサービスを分析し、そこからインサイトを探るような内容でした。その過程で、大塚さんがビューティ業界、河さんがメンズコスメに強い関心を持っていることが分かり、「ビューティ業界のCX戦略」をテーマに活動していこうという話になりました。
――「THE BEAUTY QUESTERS 白書」について教えてください。
神澤:「THE BEAUTY QUESTERS白書」は、「ビューティ業界(コスメ)におけるCX戦略の紐解き」をテーマに、3つのテーマを設定し、80人へのアンケート調査をもとに分析・考察したレポートです。
3つのテーマとは「ブランドが選ばれる理由」「デパコス消費行動から紐解く“届く体験”のつくり方」「メンズ美容のCXを加速化させる虎の巻」です。
いずれのテーマでも、調査結果に加えて、顧客体験をどのように向上させるかという視点から、LINEを活用した具体的な施策やアイデアを提案しています。
ブランドが選ばれる理由
――それぞれのテーマの調査について教えてください。
飯村:まず「ブランドが選ばれる理由」についてです。メインテーマを「生活者はどのような視点でコスメ(化粧品)を選ぶのか?」と設定し、アンケート調査を実施しました。
その結果をもとに、①カスタマージャーニーの各段階におけるブランドの生活者インサイト、②公式LINEアカウントとブランドの生活者との関係性――この2点を明らかにしています。
調査結果の分析からは、第三者から「製品の品質が高い」といった情報を得て、その内容に確信を持った瞬間に購買意欲が高まる、という典型的な購買プロセスが見えてきました。特に購入チャネルでは百貨店での購入が圧倒的に多く、継続購入率も高いことが特徴です。レポートでは、このようなジャーニーの中でLINEがどの段階で関わり、どのように生活者の判断に影響を与えているのかを具体的に紹介しています。
また、高価格帯のブランドでは、「どうすれば継続的に顧客を獲得できるか」が大きな課題となっていることがわかりました。そのため、継続的な顧客の獲得を実現し、私たちの生活の中でも中心となりつつあるLINEを活用することで、これまでに蓄積したデータを活用し、潜在的なニーズを掘り起こす余地があると考えています。
デパコス消費行動から紐解く“届く体験”のつくり方
――それぞれのテーマの調査について教えてください。
大塚:次に「デパコス消費行動から紐解く“届く体験”のつくり方」についてです。このテーマでは、若年層がデパコスを購入する際にLINEとどのように関わっているかを分析しています。
きっかけは、私が担当している案件で、若年層の公式LINEへの反応が非常に低かったことです。興味を持って友だち登録をしているはずなのに、配信へのリアクションやLINE経由の購買数値が他の年代に比べて明らかに低い――その理由を探ろうとしたのが出発点でした。
アンケートでは、23〜35歳を「若年層」、36歳以上を「高年層」として実施し、両者で差が出た設問に焦点を当てて考察を深めました。その結果、特に「情報源」と「購入チャネル」で大きな違いが見られました。
若年層は、友人のおすすめや信頼するインフルエンサーの発信など“リアルな共感”を重視する傾向が強い一方で、高年層は企業の公式LINEを信頼できる情報源と考える割合が高いことが分かりました。購買チャネルについても、若年層の8割以上が百貨店や直営店などのリアル店舗で購入しているのに対し、高年齢層では約4割がECで完結していました。ここまで行動が異なることは新たな発見でした。
さらに、公式LINEの活用頻度や利用目的についても調査を行い、若年層と高年層で微妙に異なる傾向が見えてきました。これらを踏まえ、「 THE BEAUTY QUESTERS 白書」では、若年層特有のインサイトを明確化し、それに合わせた公式LINEのあり方を提案しています。
加えて、こうした施策を効果的に実現するためには、LINE単体ではなく顧客接点全体の体験設計が重要であることを強調し、私たちの部門で行ってきた「若年層に届くLINE施策」の事例も紹介しています。
メンズ美容、気づけば“ブルーオーシャン”
――それぞれのテーマの調査について教えてください。
河:私は「メンズ美容、気づけば“ブルーオーシャン”」というテーマを担当しました。このテーマでは、メンズ美容ならではの生活者インサイトや、男性の心を動かすためのヒントを探り、そして「公式LINEの配信をどうすれば確実に男性顧客に届けられるか」という問いに対する私たちの考えを紹介しています。
私自身、もともとメンズスキンケアやコスメに強い関心がありましたが、マーケターとして調べてみると、男性を対象にした調査やカスタマージャーニーの整理がほとんど存在しませんでした。そこで「それなら自分たちで明らかにしよう」と考え、今回の取り組みを始めました。
調査では、電通デジタルの男性社員へのヒアリングと、インターネット上の定量データを掛け合わせ、男性のカスタマージャーニーを作成しました。さらに、男性がどのようなきっかけでメンズ向け美容商材と出会い、購入し、継続利用していくのかを明らかにし、各フェーズでのカスタマージャーニーと行動のハードルを可視化しました。
印象的だったのは、化粧品に興味を持たない理由が「抵抗感」ではなく「未接触」であるという発見です。多くの男性は、「誰かに勧められたら使ってもいい」と考えていて、課題は「いかにデジタルを通じて初回接点をつくるか」に集約されるといえます。
また、タイプ別のCXを整理したことで、女性とは異なる男性特有の行動特性も浮かび上がりました。特に、男性の方がブランドへのロイヤリティが圧倒的に高い点は顕著です。こうした違いから、男性と女性ではCX戦略の立て方そのものを変える必要があることが明確になりました。
“愛されるCX”を実現するプランニングを提案したい
――白書の結果を踏まえて、ビューティ業界のマーケターに向けてメッセージをお願いします。
河:メンズ美容は、今まさに“ブルーオーシャン”な市場です。現時点で、ここまで詳細に分析しCX設計まで踏み込んでいる事例はほとんどありません。だからこそ、ブランドと男性ユーザーの関係構築をいち早く進めていきたいと考えています。「メンズ美容なら電通デジタルの河」と指名していただけるよう、引き続き力を尽くしていきます。
大塚:私たちはブランド支援をする立場ですが、一方で日々ビューティ商品を使う生活者でもあります。私たち4人はそうした生活者としての実感と分析力と掛け合わせながら議論を重ねています。実際の体験とブランド発信とのギャップを意識しながら考察することが、私たちの活動の特長です。こうした生活者視点を内包した提案ができる点が、ソーシャルエンゲージメントデザイン部門の強みだと思います。CXでお悩みのブランドは、ぜひお気軽にご相談ください。
飯村:ブランドにはそれぞれ独自の歴史とストーリーがあります。その背景を理解したうえで、裏側からCXを支え、デジタルでよりスムーズでシームレスな体験を設計することが、私たちの使命です。統一されたブランドイメージをどう届けるかを常に意識しながら愛されるCXを実現するプランニングを提案していきたいと思っています。
ブランドと生活者のあらゆる接点がCX
――「 THE BEAUTY QUESTERS 白書」ではビューティ業界を題材にされていますが、今後ほかの業界も含めて、ブランドのCX構築にどのような支援をしていきたいと考えていますか?
神澤:いまや、ブランドと生活者のあらゆる接点がCXそのものです。たとえば「SNSで質問したのに返信がない」「店頭の案内が不十分だった」「電話問い合わせでたらい回しにされた」といったひとつひとつの体験が、すべてブランドイメージに直結します。今後は、こうした多様な接点を横断的に捉えたCX設計がより重要になっていくと思います。
私たちは特にLINEを活用したCX設計を得意としており、その中でも注目しているのが「LINEミニアプリ」です。たとえば、公式LINEからの問い合わせをそのままコールセンターにつなげて即時対応したり、在庫管理システムと連携してツークリック購入を可能にする仕組みを構築したりといった活用事例があります。こうした仕組みを通じてシームレスに、顧客がストレスなくブランドとつながれる体験を提供します。
私たちは、LINE活用のご相談から始まり、CX戦略の立案、コミュニケーション設計、実装、運用まで、一気通貫で支援していきたいと考えています。
飯村:調査では、広告やイベントを通じて感じるブランドイメージと、公式LINEを通じたコミュニケーションで受ける印象に一貫性があるブランドほど、ロイヤリティが高い傾向が見られました。
ソーシャルエンゲージメントデザイン部門では、広告チームとオーガニックチームが連携し、360度のマーケティング支援が可能な体制を整えています。CX全体を見据えたブランド設計に関心のある企業は、ぜひご相談いただきたいです。
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PROFILE
プロフィール
神澤 由利
SNS(Facebook, Instagram, Twitter, LINE, Tiktok)を中心にSNS戦略、コミュニケーションプランニング、全体を統括するプロジェクトマネジメントとして従事。顧客インサイトをベースにしたブランドコミュニケーションプランとそのPDCAが強み。ラグジュアリーブランド、コスメブランド、アパレルなどの女性商材から、製薬、食品、飲料メーカーなど様々なSNSの課題に取り組む。2013年に電通アイソバーに参画。
飯村 玲香
ニューヨークに拠点を置く出版社で、デジタルファッションエディターとして2014年よりキャリアをスタート。編集・PRの経験を積んだのち、2017年1月にソーシャルメディアプランナーとして当社に参画。外資系企業を中心に、ラグジュアリーブランドや大手航空会社のコンテンツマーケからデジタルコミュニケーション設計を中心に幅広く従事。
大塚 菜月
LINEをはじめとしたSNS起点のデジタルマーケティング支援に携わり、アカウント運用やコンサルティングを担当。OMO施策やキャンペーン設計など、オンラインとオフラインを横断した体験設計に取り組む。SNS上で取得できる様々なデータを起点に、ユーザーにとって快適で自然な体験となるよう、PDCAの中で改善していくことを得意とする。
河 翔
韓国の大学を卒業後、2022年に新卒で電通デジタルへ入社。SNS(LINE, X, Instagram)を中心にしたCX設計やコミュニケーションプランニングを担当。顧客体験を起点に、ブランドと生活者をつなぐ最適なコミュニケーション設計が強み。SNSを通じて、企業の想いとユーザーのニーズが重なり合う自然なコミュニケーションの実現を目指している。
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