10周年を飛躍の起点に──電通デジタルが描く2026年の進化ビジョンを瀧本社長に聞く
2025年、電通デジタルは「AI」「クリエイティブ」「グローバル」「統合サービス」を軸に、事業変革を大きく前進させ、多面的な成果を生みだしました。また「ふかめる。つながる。つっぱしる。」という新バリューの発表をはじめ、人財育成や組織文化の強化にも注力しました。急速な変化の中で、電通デジタルはどこへ向かうのか。代表取締役社長執行役員の瀧本 恒が、2025年の振り返りと2026年の展望を語ります。
AIを中心に大きく進んだ2025年
――2025年は「AI」「クリエイティブ」「グローバル」「統合サービス」を重点テーマとして事業を進めてきました。これらの成果や手ごたえを教えてください。
瀧本:まず象徴的だったのは、7月に「統合レポート」を発表したことです。通常は上場企業が公開することが多いレポート形式ですが、あえて同水準の内容をまとめて発表しました。これにより、株主やその先の投資家だけでなく、クライアント、パートナー企業、社員の皆様、社員のご家族、そして今後採用に応募してくださる方々など、多様なステークホルダーに向けて、当社の活動を包括的に伝えることができました。
AIに関しては、2025年が大きな波の年だったと捉えています。その流れを確実に捉え、2026年につながる数多くの取り組みを進めることができました。年初には、全社的なAI化を目的とした横断組織「AI Native Twin」を立ち上げ、全社のAI活用レベルの底上げを図りました。
組織づくりだけでなく、具体的なプロダクト開発やクライアントとの先進的な取り組みも大きな成果です。1月に「∞AI Social」、3月に「∞AI Chat」「∞AI LP」をリリースし、4月には∞AIを大幅アップデートしてAIエージェントの運用を本格化させました。さらに7月にはAIエージェントを搭載した「∞AI Ads2」を公開。加えて、生成AI普及によるゼロクリック検索の増加を見据え、5月には業界に先駆けて「GEO(Generative Engine Optimization/生成エンジン最適化)コンサルティングサービス」も開始しています。
国内電通グループ(dentsu Japan)全体としても、5月に独自のAI戦略「AI For Growth 2.0」を発表。電通、電通デジタル、電通総研、イグニション・ポイントの4社が連携し、マーケティング領域のAIネイティブ化を一層推進していく方針を示しました。その象徴的な取り組みとして、日立製作所との戦略的協業や、6月にMetaとのAI領域における提携を開始したことが挙げられます。
こうした取り組みを背景に、現在、多くのクライアントにAIに関する提案を行っており、2026年はさらに大きな成長が見込まれると考えています。
クリエイティビティ×テクノロジーが生み出す新たな競争力
――2025年は、大きな広告賞での受賞も相次ぎました。
瀧本:2025年は、「すべての領域にクリエイティビティを」を掲げて横断組織DDCR(Dentsu Digital Creative)を立ち上げたほか、社内でクリエイティブ事例を共有する「イッキ見会」を定期開催するなど、組織全体のクリエイティブ力を底上げする取り組みを進めてきました。
その成果として、Spikes Asiaに加え、世界3大広告賞のひとつであるクリオ賞(The Clio Awards)やカンヌライオンズ(Cannes Lions International Festival of Creativity)でも、ゴールドやグランプリを受賞できたことは大きな喜びです。これらの実績によって、電通デジタルのクリエイティビティの存在感もさらに大きく高まったと感じています。
私たちは、クリエイティビティとは「制作表現の領域」に限られるものではなく、すべての領域で発揮されるべき力だと考えています。たとえば、分析の切り口の工夫や、メディアプランニングにおける発想の転換など、クリエイティブな思考が突破口を生み出す場面は数多くあります。「クリエイティビティ×テクノロジー」は、まさに当社の競争力そのものであり、それを体現できた年だったと思います。
こうした成果を踏まえ、2026年も引き続きクリエイティブ強化の流れを維持し、さらなる成長につなげていきたいと考えています。
グループ全体で電通デジタルが担う役割
――電通グループ内の連携について、特に印象的だったものを教えてください。
瀧本:まず挙げたいのは、先ほどもお話ししたグループ横断のAI戦略「AI For Growth 2.0」です。2026年には、そこで掲げた構想がより具体的なサービスとして形になり、クライアントへの提供がより進んでいくと考えています。
2025年は、dentsu Japan各社との連携はもちろんのこと、Merkleとの協業促進も大きなトピックでした。海外オフィス経由で開発を行うことで、高いクオリティを担保しつつ、開発費の最適化も図れるなど、さまざまなメリットが生まれてきています。Tagとの連携も強化しており、多言語・多文化に対応した広告コンテンツ制作の新ソリューションも提供開始しました。こうした協働が進むことで、電通デジタルの競争力はより高まっていくと思います。
メディア領域では、OTTの台頭もあり、電通のラジオ・テレビ局との連携が大きく進みました。その結果、動画領域の伸長率は約130%と、大きな成長を達成しています。インターネット広告分野において電通デジタルとしてグループに大きく貢献できたと感じています。
また、dentsu Japanが掲げる「統合の拡張」を実現する上でも、電通デジタルは得意とするマーケティング領域に集中し、その専門性を深めていくことで、引き続きグループ全体への貢献を強めていきたいと考えています。
新バリュー「ふかめる。つながる。つっぱしる。」が示す文化づくりの方向性
――人財に関する取り組みや成果について、特に印象的だったものを教えてください。
瀧本:まず大きなトピックとして挙げられるのが、「キャリアシフトサーベイ(キャリア意向調査)」の導入です。社員一人一人のキャリアの希望や意向を可視化することで、多様なチャレンジの機会をつくりやすくすることを狙いとしています。
また、7月には新しいバリュー(行動指針)として「ふかめる。つながる。つっぱしる。」を発表しました。この言葉を軸に、電通デジタルらしい文化をより強く育てていきたいと考えています。その一例として「AIビジネスアイデアソン」があり、社員が横断的に集まり、自由にアイデアをぶつけ合う取り組みとして、まさに新バリューを体現できたイベントだったと思います。
さらに、電通グループ全社で毎年実施している社内調査結果を踏まえ、さまざまな改善施策を継続して検討しています。企業文化の強化、社員同士のつながりづくり、キャリア育成、生産性向上、報酬制度の充実など、これまで成果の出た施策をさらに進化させるとともに、設立10周年に合わせた新たな取り組みも加えることで、社内の一体感醸成をより進めていきたいと考えています。
真因を見極め、最後まで伴走する──電通デジタルの課題解決アプローチ
――クライアント課題の高度化が進む中で、電通デジタルはどのような貢献ができるとお考えですか。
瀧本:今、クライアントが抱える課題はあまりにも多岐にわたり、複雑化しています。その結果、クライアント自身でも「本当の課題がどこにあるのか」が見えにくくなっているケースが非常に多いと感じています。その大きな要因の一つがサイロ化です。
私たちが果たすべき役割は、そのサイロ化によって生まれた課題の原因を正確に特定し、解決に至るまで伴走すること。そして、電通グループとして横断的につながり、最後まで寄り添い続けることだと思っています。多様なクライアントと日々向き合っているからこそ、内部だけでは気づけない「外からの視点」を提供できるのは、電通デジタルと電通グループの大きな強みです。
また、電通グループ全体では、膨大な生活者データを基盤に、生活者理解を長年深めてきました。だからこそ、生活者目線に立った提案こそが私たちの価値だと考えています。課題が複雑化する今の時代だからこそ、データに基づいた生活者視点が突破口になる場面は非常に多い。クライアントには持ち得ない目線で課題を見つめ、解決策を提示できることも、私たちの武器だと思います。
――今後のテーマと、それによってクライアントに提供できる価値とは何かをお聞かせください。
瀧本:AIが象徴的ですが、変化が非常に速い時代においては、ただ変化についていくだけでは不十分です。その先を読み、自ら変革を起こしていくことこそが、電通デジタルの未来を切り開くと考えています。
そのためにも、私たち自身の組織内にある領域間のサイロを解消し、その取り組みを起点に、当社とクライアントの双方が成長していく「ポジティブスパイラル」をつくることを目指しています。
具体的には、部門間の連携を強化して一体運営を実現することで、クライアントの事業成長にこれまで以上に大きく貢献できるようになります。統合的なマーケティングソリューションの提供を通じて、より深く関わっていきたいと考えています。また、効率的かつ適正なコストでサービスを提供することで、持続的なパートナーシップの構築にもつながります。
こうした取り組みによって、社員の成長機会が増え、組織としての人財・知見が蓄積され、さらに質の高いサービス提供が可能になる。その結果、クライアントの事業成長に寄与し、クライアントに喜んでいただき、また新たな成長につながる──。この循環こそが、私たちが目指すポジティブスパイラルです。
これまでも取り組んできたテーマではありますが、今後はより突き詰め、スピードを上げて実行していきます。その上で、AIや広告領域をはじめとする2025年までの実績やグループ連携を着実に発展させていきます。そうすることで、その先にマーケティングDX領域のリーディングカンパニーとしての姿が見えてくると信じています。
組織の力を最大化する鍵はインテグリティ──誠実さや倫理観を持って、尊重し合う組織へ
――人財に関する取り組みや、組織文化の向上に向けた方針について教えてください。
瀧本:まず根底にあるのは「クライアントや社会に貢献できる事業成長パートナーを目指す」という考え方です。この方針に基づき、「人財価値の高度化」「生産性の向上」「コンプライアンスとインテグリティの重視」という3点を特に大切にしながら取り組みを進めていきたいと考えています。
これらの目標に向けて、すでにさまざまな施策を実行していますが、その中でも特に重要視しているのが「インテグリティ」です。クライアントや社会に貢献するためには、私たち自身が互いを尊重し合う組織でなければなりません。個々が誠実さや倫理観を持って行動できるからこそ、チームとしての力も最大化されます。個の成長だけでなく、チームとしての力を高めていくことも今後強く意識していきたいポイントです。
新バリューの「ふかめる。つながる。つっぱしる。」も、根底には社員同士の相互尊重があってこそ実現できるものだと考えています。こうした価値観を日々の行動に反映し、電通デジタルらしい文化をより確かなものにしていきたいと思っています。
2026年、電通デジタルは設立10周年を迎えます。これからも業界、さらには電通グループ全体をリードし、社会から尊敬される会社であり続けたい。そのためにも、成長の障壁となり得るサイロを打破し、統合をさらに深める必要があります。そして、当社ならではの専門性を武器に、「電通デジタル」という一つのチームとしてクライアントの課題解決を最後までやり抜く組織をつくっていきたいと考えています。
PROFILE
プロフィール
瀧本 恒
事業会社でHR事業の営業や情報通信事業でのマーケティングを経験し、2000年電通入社。クライアント企業のビジネスを、デジタルを活用しコンサルティングから実装まで支援。2016年からは電通デジタルの執行役員、2021年からは電通のデジタルビジネスセンター長を経て、2023年に電通デジタル代表取締役社長執行役員に就任。